【ブックレビュー】無効な遺言書とは?(「元彼の遺言状」新川帆立著)

 

《僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る》という、奇妙な遺言状を残した元彼。

元彼は本当に殺されたのか?この遺言状の本当の意味は?

 

第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。作者は、東大出身の女性弁護士さん。

この作品でデビューということですので、いささか盛り込みすぎ感や設定の違和感などもありますが、それを凌駕するキャラの立った主人公の女性弁護士が魅力的で面白い!

 

遺言書をはじめ、遺留分や財産の国庫帰属などの内容も出てきますので、遺言を書く際の参考になるかもしれません。

 

実務上の話をすれば、この遺言書の内容は《公序良俗違反》により、無効になる可能性が高いと思います。(民法第90条)

 

「公序良俗」とは「公的な秩序と善良な風俗」の略語で、簡単に言うと「常識的な考え」や「一般的なきまりや風習」を意味します。

「公序良俗」はすべての法律の基本となる考え方であるため《公序良俗違反》となるような法律行為は無効になるというものです。

 

遺言の無効とは、遺言としての法的な効果がなく、遺言書に記載のされた内容が実現しないことを意味します。つまり、せっかく書いた遺言書が無意味な紙切れになってしまうということです。

 

主に、遺言が無効となる場合としては、

 

①遺言の方式に違反があるもの

 

②遺言能力を欠くもの

 

③遺言の内容に問題があるもの

 

が挙げされます。前述の《公序良俗違反》は③に該当します。

 

ところで、遺言者が不倫関係にある愛人などに遺産を相続させる(遺贈する)旨の遺言を遺した場合、有効となるのでしょうか?これも《公序良俗違反》に該当しそうですよね。

しかし、この場合は事例により、有効とも無効とも判断されています。法律って一筋縄ではいきませんね。

 

このように遺言が有効となるためには、遺言の方式に違反しないことに加え、遺言の内容自体も民法の規定に違反しないようにする必要があります。つまり、形式面・内容面のいずれにも注意をしなくてはなりません。

 

有効な遺言書を遺したければ、形式や内容を含めて、一度専門家に相談することをおすすめいたします。

あなたの最後の意思が、ちゃんと遺された人に届くようにお手伝いいたします。